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日本

明治・大正の日中文化論

明治・大正の日中文化論

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明治・大正の日中文化論

著者
藤田昌志
出版社
三重大学出版会
出版年月日
2011.02
価格
¥2,640
ページ数
305
ISBN番号
9784903866055
説明
 日中間には相互に誤解が多い。中国から漢字文化をはじめ、仏教や儒教の影響を受けたという事実が、かえって相互理解の障壁となっている気配すらある。日中両文化には関連性もあるが、相違も大きいことを、歴史を遡って深く認識しなければならないだろう。本書は、そんな比較の意図を明確にもって書かれた書物である。魯迅と厨川白村の関係を皮切りに、日中文学観の相違、岡倉天心、志賀重昂、三宅雪嶺、内藤湖南らの中国観、周作人の日本観を論ずる。日本の中国像には歴史的な歪みがあって、これを知るには、近代日本の思想を検討する必要があり、本書はその意味で、真っ先に手に取る価値があると言えよう。中国研究の側からすると、文献的にやや物足らない部分もあるが、叙述は平易で分かりやすい。思想を社会状況と対応させる手法も説得力があろう。
 ふたつ論点を提示しておきたい。中国文学の政治的傾向という指摘は頷けるが、作家も多様であって、繊細な文学的表現を目指した者もいる。魯迅を一概に「載道文学」の範疇に入れるのは、魯迅を専門とする評者としては、やや疑問である。日本近代文学の特徴として挙げられる「懺悔」が、中国文学でも中心的テーマだったことは、すでに指摘されていよう。逆に日本近代文学それ自身が、文学というイデオロギー的「政治性」のなかにあったことも指摘しておかねばならない。
 もう一点は、内藤湖南に関して。「平民発展時代が即ち君主専制時代である」というテーゼは、現在に連なる中国史学の重要な問題であった。論争好きの評者としては、湖南をめぐる著者の子安宣邦批判に、最も読み応えを感じたが、島田虔次から溝口雄三に到る系譜を視野に入れると、もっと面白い議論になっただろう。湖南の再評価はすでに聞かれるが、本書の見所のひとつである。なおこれらの論点は、井の中の蛙のたわごとなので、本書の読後感として、日本の近代思想を中国像から切り込む面白さをたっぷり味わった余韻が残った。日本学、中国学を志す人だけでなく、広く一般の読者にお勧めしたい。         
※出版年が古いので新本ですがヤケ・シミ・痛みがございます。